神経共培養とグリア細胞相互作用

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神経共培養は、2種類以上の細胞が含まれた in vitro 細胞培養です。神経細胞は、ミクログリアやアストロサイトなど中枢神経内の他の種類の細胞と共存しています。神経共培養は、これらの細胞間における複雑な相互作用を再現させることができるため、神経発達・疾患進行・神経機能の研究に大変有用です。

ミクログリアは、神経系自然免疫システムの重要な構成要素であり、その機能不全は、双極性障害、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など、多くの精神神経疾患や神経変性疾患に関与していることがわかっています。

神経免疫の相互作用、或いは健康や病気に対する影響の研究に、Maestroがどのように使用されているかを、論文ハイライトにてご覧いただけます。

Maestro Pro を用いた神経共培養内の相互作用のモデル化

ミクログリア及びアストロサイトによる神経活動制御の探索
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ミクログリアは、脳内の環境を継続的にモニターしながら病的変化に対応します。暴走する興奮から脳を守る重要な役目を担っており、局所的な神経活動を制御し、マクロファージのスカベンジャーとして機能します。

本研究では、Maestro MEAを用いて、初代皮質神経細胞とミクログリアの共培養から電気的な活動を測定し、ミクログリアによる神経活動制御の根底となるメカニズムを解明しました。詳細は Badimon et al, Nature 2020 をご覧ください。

microglial regulation of neural activity

ミクログリアは、アデノシン受容体依存的に神経細胞の活動を制御している。神経細胞が活動すると、アデノシン三リン酸(ATP)が放出され、近傍のミクログリアは神経活動阻害物質であるアデノシンに変質する。ミクログリアによるグルタミン酸誘発興奮性の抑制は、アデノシン受容体アンタゴニストによって阻害される。図は Badimon et al, Nature 2020 より改変したもの。

アストロサイトとニューロンの相互作用は、神経ネットワーク活動の恒常的な制御もサポートしています。アストロサイトとの共培養により、iPS細胞由来グルタミン酸作動性ニューロンのネットワークバースト頻度は40%増加しました (n=10 wells)。また、100 nM のピクロトクシンを添加すると、その差は84%に増加しました。アストロサイトは電気的な活動を持たないことから(データは示さず)、アストロサイトが直接活性化に関与しているのではなく、グルタミン酸作動性ニューロンへの影響を通じて活性化に貢献していることが示されました。

Neural co-culture raster plot from MEA system
Neural co-culture activity in raster plot from Maestro MEA
Neural co-culture activity compared over time

(A) グルタミン酸作動性ニューロンから得られたスパイクラスタープロット。(B) グルタミン酸作動性ニューロンとアストロサイトの共培養から得られたラスタープロット。(C) ピクロトクシン(100 nM) 投与後のネットワークバースト頻度の反応。

 

神経-免疫オルガノイド内ネットワークの発達検証モデルの開発
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神経免疫オルガノイドは、神経発生や神経ネットワーク形成における、ニューロン-ミクログリア相互作用の役割を研究するための有用なモデルです。ミクログリアは、ストレスやダメージから神経細胞を保護するだけでなく、神経ネットワークの発達を加速させます。Popova et al, Cell Stem Cell 2021 では、Maestro MEAプラットフォームにより、移植されたミクログリアが、皮質神経オルガノイドの同期的・振動的ネットワーク活動を増加させたことが示されています。

Neural organoid with neuroimmune

移植されたミクログリアにより、皮質神経オルガノイド内の同期的ネットワーク活動の発達が促進された Popova et al, Cell Stem Cell, 2021

 

ミクログリアとアストロサイトによる神経活動制御の探索
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慢性的な神経炎症は、グリア細胞の機能を低下させ、神経変性疾患の原因となります。アルツハイマー病では、炎症によりミクログリアのアミロイドβ (Aβ42)を除去する機能が低下し、シナプスが損傷します。

Li et al, Frontiers in Immunology 2020 では、Maestro MEAプラットフォームを用いて、アミロイドβの蓄積が、皮質ニューロンの機能に、どのように影響するかが研究されました。Aβ42オリゴマーに曝露されると、わずか24時間後に in vitro で過剰興奮が起こり、in vivo で見られる表現型が再現されました。また、スパイクソーティングにより、神経細胞の生物物理学的特性の変化も確認されています。

活性化された骨由来マクロファージとの共培養により、シナプスが維持され、表現型が修復されることが確認されました。この結果も in vivo で見られる現象を再現しており、新たな治療法として期待されます。

Spike shape recorded from neurons changing with addition of immune cells

(A) は皮質神経細胞から得られたスパイク頻度を示す。24時間曝露後、Aβ42オリゴマー(XL-oAβ42)投与の神経スパイク活動は、フィブリル(fAβ42)及びVehicle と比較して顕著に高かった。48時間曝露後では、フィブリルとオリゴマー両方での活性化が確認された。(B)これらの変化は、細胞外電位スパイク波形の変化 (Through-to-peak width の縮小と早い再分極) にも現れた。図は Li. et al, Frontier in Immunology 2020から改変。

 

神経共培養内の抑制系及び興奮性ニューロンの相互作用検証
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神経回路の活動は、興奮性神経と抑制性神経のバランスにより特徴づけられます。脳の各領域には、神経細胞やグリア細胞が異なる組成で存在し、それぞれの活動は異なるネットワーク表現型によって特徴付けられます。

iPS細胞技術により、既知の神経細胞サブタイプを共培養し、神経共培養の組成をカスタマイズすることが可能になりました。本事例では、グルタミン酸作動性ニューロンと GABA 作動性ニューロンを異なる割合で2週間培養しました。GABA作動性ニューロンの割合が高い共培養は、その活動は約2週間でピークに達したものの、ネットワークとしての活動はあまり見られず、培養内を支配する抑制性ニューロンがバーストの同機を妨げることが示唆されました。

この比率を逆転させると、興奮性グルタミン酸作動性ニューロンによるネットワークバースト活動が多く見られました。アストロサイトを配合し、52 / 22/ 26% (グルタミン酸作動性ニューロン / GABA作動性ニューロン / アストロサイト)割合の共培養から、ラット皮質細胞に近い活動パターンが得られました。

Neural activity raster plot of neural co-culture
Firing rate of neural co-culture over 4 weeks

(左図) 異なる割合の、グルタミン酸作動性ニューロン、GABA作動性ニューロン、アストロサイト共培養から得られたラスタープロット。(右図) 各共培養の発火頻度 (培養開始から4週間後)。

 

Maestro Proを用いた神経共培養研究の特徴
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  • >> 培養内の組成の違いが神経活動にどのような影響を及ぼすかを理解し、より in vivo 表現型に近いモデルへの最適化が可能です。
  • >> 神経変性疾患、および神経精神疾患における、ミクログリアとアストロサイトの役割を探索できます。
  • >> 1枚のプレートで96サンプルの培養が作成できます。ネットワークの発達や疾患の進行などを容易に比較することができます。
  • >> Lumos による光刺激を用いて特定の神経サブポピュレーションをターゲットとしたり、well内を分割するIbidi well insertと電気刺激を用いて神経ネットワーク構築の検証が可能です。

 

論文ハイライト: 神経免疫
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論文ハイライト:神経免疫

神経免疫研究は常に進化しています。本書では、Maestro プラットフォームを用いて、神経免疫細胞が神経ネットワークに及ぼす影響を研究した4本の論文が紹介されています。

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